Jeepney

JEEPNEYのすべて

ジプニー。ものすごい音と排気ガスとともに、そのキラキラの車体が街を埋め尽す。マニラで、この乗り物を見たことのない人は、まずいない。UP(フィリピン大学)校内でも、毎日、5つの路線が出入りし、朝4時あたりから、夜は10時半過ぎまで、エンジン音を響かせている。マニラだけでも一体何台が走っているのか、正式な路線図や時刻表はあるのかなど、ジプニーの謎は多い。

ジプニーの行き先は、フロントガラスの左側の札と、車体の側面に書かれている。止め方は、右手の人差し指を立て腕を体に対して直角に上げるのが一般的だ。すると、ドライバーは運転しながら左手を使って、残り何席空いているかを我々に知らせてくれる。もし、フロントガラスを見て札が下がっていなければ、それは“FAMILY USE”という家庭用ジプニー、もしくは最終便のため、手を上げても無駄である。フィリピン人は、続々にやって来るジプニーの中から、自分の行き先のものをすばやく見つけ、ドライバーの合図を読み取る術を身につけている。

ジプニーに乗る時は、男性はレディーファーストを心掛け、女性は胸が見えないように胸元に片手を当てて乗り込むのが一般常識となっている。その他、他人の代金でもドライバーまで回すこと、小中学生までの子供は混んでいる時は親の膝に座ること、お年寄りや子供が乗降するときは入り口に近い人が手を貸すこと、排気ガス対策として、各自ハンカチやスカーフで口を覆うことが暗黙のマナーである。日本のような「奥から詰める」という習慣はなく入り口近くの席は人気が高い。また、満員の場合には、全員が座席に深く腰掛けると座り切れないため、各乗客が隣の様子を確認し、深く腰掛ける人がいたら、その隣は浅く腰掛けるといった具合に、座り方を調節する。男性に限り、満員の場合でも、車体にぶら下がって立ち乗りするというオプションがある。女性の場合、それを試みると、男性乗客1名が席を譲るために降りるか、ぶら下がる羽目になるので、お勧めしない。ジプニーは、大抵18人乗りだが、このぶら下がりオプションを加えれば、さらに+4人位まで乗れる。

乗ったらまず料金を払う。最低料金はP2.50。“BAYAD PO”という声とともにお金をドライバーへ向かって出せば、前に座っている乗客が渡してくれる。自分の料金がドライバーまで届くか不安に思うが、案外皆しっかり届けてくれる。小銭が無い時でも、使えるお札はP50札までと考えた方が良い。P100、P500札は、ドライバーは受け取らない。また、朝は“BARIYA LANG PO SA UMAGA”(朝は小銭でお願いします)の札が掛かっているので要注意。おつりをなかなかくれない時は“SUKURI KO PO”(私のおつりを)と自己主張をして諦めないこと。外国人なら、片言のタガログを逆手に取り、乗客の同情と協力で取り戻すという裏技もある。支払いが済めば、後は安心して、ゆっくりと外の景色やジプニーの中を楽しめる。自分の行き先に近づいたら、“PARA PO”(止めてください)と言うが、中にはラジオの音がうるさくてドライバーに聞こえないことがあるので、それよりも天井をノックする方が効果的だ。

窓が無いため、普段は、外の風を浴びながら走るジプニーだが、雨の日は大変である。備え付けのビニールシートを下ろしても、きちんと固定されないため、あまり役に立たない。しかも風が遮られたジプニーは、まるで蒸し風呂のようだ。助手席用にはビニールシート&薄い布がついているが、こちらもヒラヒラと舞ってしまい、ストレスの基になるので、もはや濡れると諦めた方が良い。豪雨の時には、最寄のガソリンスタンド等で、ジプニーが雨宿りをする。このような突然の停止でも一人も不平を言わないのがフィリピン人である。

時々、ジプニー乗り場には客寄せ係がいる。彼の仕事はジプニーを満員にすることで、“DALAWA PA、ISA PA”(あと二人、あと一人)と、大声で叫び、我々に伝える。この時も前から乗っていた乗客はしばらく待たされることになるが、皆沈黙を守っている。フィリピン人は「忍耐の人」である。他にジプニーに関する仕事としては、代金収集係という人がいる。彼は、ドライバーが、計算が苦手な場合、助手席に座って、代金を集める。そしてタバコ&キャンディ売り。道で売り歩く彼らを、ジプニードライバーはよく利用する。信号が赤の間に、クラクションを一つ鳴らして引き寄せ、タバコ2本、キャンディ2~3個を買い、1本に火を点けさせるまでを、短時間でやってのける。

ジプニードライバーは愛妻家が多く、車体に、妻や家族それぞれの名前が刻まれたものが多い。また、ST.NINO像、マリア像などの宗教的グッズがよく飾られている。乗客も、乗ったらすぐに、それらに向かって十字を切る人や、教会の前をジプニーが通る時に十字を切る人など、ジプニーを介して、フィリピン人の信仰深さを伺うことができる。

ジプニーの用途は様々だ。田舎の方では屋根にも人を乗せる。また公共車としてばかりではなく、先に述べた家族用や、貸し切りも可能だ。荷物を運んでいるジプニーもよく見かける。それがバナナなどの場合、信号で止まる度に、STREET CHILDRENが群がり、数本を取っていく。更には、ジプニーを利用した大衆食堂がMAKATI市にあり、ビジネスマンが昼食やおやつに愛用しているらしい。車体の改良も徐々に進んでおり、最近では窓付、エアコン付の物も姿を現し始めた。

ジプニーはマニラ、フィリピンのシンボルだ。1年前、マニラに来て間もない頃、“BAYAD PO”,“PARA PO”と言う度に妙に興奮した。初めて助手席に座ったときも新鮮な感動を覚えた。ジプニーの使用言語はタガログ語である。自分の行き先を一度で理解してもらえ、ドライバーとの会話がスムーズに行われた時には、「遂に自分も一人前になった」と満足した。決して最高の乗り心地を提供する乗り物ではないが、その未完全なところがフィリピンらしくもあり、人のぬくもりが残っていて、私は気に入っている。
(1999年2月 UP Diliman International Centerにて)